キーワードは『ロストテクノロジー』。
ロストテクノロジーとは「現代までのどこかで伝承の途切れた技術」のことで、ざっくり二系統に分類できる。
一つは技術の伝承が途絶えるもの。
技術を守ろうとして秘密主義を貫いた結果伝承が十分に行き届かず後継者が育たなくなるもの。権力などの後ろ盾が戦争や侵略で喪失したり必要な原料が取れなくなるなどの環境の変化によるものがある。
もう一つは新技術による駆逐。
旧来の技術がどれほど優れていようと、手軽さとコストに勝れば旧来の技術はじんわりと失われていく。気が付いたときには旧来の技術を知るものは伝承するに足りず、喪失を免れない。
双方に共通することとして、一度失われた技術の復活が不可能なことだろう。
現代科学の分析と当時の文献の解析で似たような技術を復活できても、それを当時のものと比較する手段がない。失われたものは大きいのである。
有名なところだとストラディバリウスのバイオリンが該当する。
技術の断絶もそうだが、値段が値段だけに科学分析にもおいそれとかけられない事が再現を難しくしている点は苦笑してしまう。
ロストテクノロジーはしばしばオーパーツとセットで語られる。
オーパーツとは『場違いな工芸品(Out-Of-Place-ARTifactS)』の略称で、当時の技術レベルで造れるかどうかが不明であったり、現代の眼で見ても製法や用途が不明であるものを指す単語である。
もちろんオーパーツの中には当時の技術に対する誤解によるものも含まれていて、謎が解明されているものも少なくない。
そんなオーパーツのひとつ『ダマスカス鋼』の製法は立派なロストテクノロジーである。
ダマスカス鋼と言えば波打った文様が特徴で、ホームセンターでもダマスカス鋼をうたった包丁があるくらい有名だ。
しかし、このダマスカス鋼の製法は19世紀に失われている。
現代の技術者が文献や材質を解析して似たような合金を作り上げたものの、近年その製法ではありえない物質が入っていることが発見されて不正確な再現であることが証明された。何だよカーボンナノチューブ入りって。
ちなみに前述のダマスカス包丁は、複数の金属を織り込んで叩き合わせそれっぽい文様が出るようにしただけのものだ。
ただし、金属のすり減り方が違うので切れ味が長持ちするメリットがあることは否定しない。
似たような効果は鍛造の刃物にもある。
ダマスカス鋼は文様が見えやすくなるような加工を施すのに対し、鍛造のものは水平に層にしてしまうから見えづらいだけだ。
ちなみに日本刀にもロストテクノロジーが存在する。
江戸時代以前に作られた刀(いわゆる古刀)の中には、刀鍛冶同士の交流も増え製鉄技術も上がったはずの江戸時代の刀(新刀)より優れたものが多いとされる。
職人の秘密主義が技術の断絶を招いてしまったのか。
さて。
実はここ70年のレベルでもロストテクノロジーは立派に存在する。
それが戦艦の主砲の砲身だ。
ミサイルや戦闘機の発達により主砲での打撃戦が無用となり、戦艦クラスの大口径主砲を製造する意味がなくなってしまった。
そして70年を経た現代では技術の伝承が途絶え、製造が不能になっている。
近年旋盤が廃棄されたが、大和の主砲を作った工作機械のほとんどは休止であるが現存している。
しかし現在では工作機械を動かせても主砲の製造は出来ない。あれほどの長大な砲身を精密砲撃が可能なレベルで工作するには、アナログな工作機械のクセやコツを知り尽くした熟練工が必須なのだ。
少し前までなら大和の主砲を作った技術者が現役であったはずだ。
ちょっと前なら聞き取りも出来たはずだ。
それでもこういう形で技術の断絶は起こる。
失われたのが戦争目的の技術であることは複雑な思いを抱くものの、そういう技術を失えるほど平和だと言うなによりの証明なのだろう。
最後に。
戦艦の技術がすべて無駄になったわけではない。思わぬところで平和に利用されているものだ。
大和の主砲の旋回部分を作った技術者は、のちにホテルニューオータニの展望レストランを手掛けている。
眉をひそめる向きもあるだろうが、私個人としては、とてもいいと思っている。
追伸。
失われた古刀の製作技術を復興しようとしている刀鍛冶が、思いもかけないところで仕事をしている。
いずれ見に行きたいとは思っている。この数年来の願いだ。
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