今現在、地球上に存在する飛行可能な零戦はわずか4機。
そのすべてが墜落機などのスクラップから復活されたもので、大戦時からの生き残り機体は存在しない。その理由に文句の一つもつけたいが、つけたところで復活するわけでもなし。
そのフライアブルな零戦の一機を日本人が所有している。あまつさえ日本で動態保存しようという計画がある。
それが
零戦里帰りプロジェクトだ。
もちろん賛否両論入り乱れるこの計画、果たして成功するのだろうか。個人的にはちょっと疑問符を浮かべたいところなのである。
時速850km。
突拍子もなく書き出した数値であるが、この値はレシプロ機における絶対速度記録である。
地表より100mを離れないような高度での直線3キロを、給油やメンテナンス込みで1時間内に往復し平均を競うというものだ。
記録した機体はF8Fベアキャット改造機の『
レアベア』.。改造内容はほぼ全面的な空力の見直しのみならず、エンジンを純正の
P&W R-2800からより大排気量な
ライトR-3350のフルチューンモデルへ換装した上で、大排気量エンジンのトルクで純正より大きなプロペラをギアダウンして接続しぶん回す――とまあちょっと大戦機を知ってるレベルだとアゴの骨を外すような魔改造を施されたモデルだ。
その記録をマークしたのは1989年。そして残念ながら記録達成後にエンジンブローしたためエンジンを交換、若干速度は落ちたもののいまだ現役のエアレーサーとして飛び続けている。
間違ってはいない。大戦機が叩き出した記録は20世紀末の話なのだ。
アメリカには大戦機を維持するどころか、全開で飛ばせる競技と機体を支える下地がある。それは小型飛行機が自動車の上位互換となるアメリカらしい環境だ。
国土が要求した環境とはいえうらやましいと思う。
しかし、そういう下地があっても情熱だけで機体の維持は不可能である。
夢を食べて生きていけると自称するのは獏と元少年くらいのもので、飛行機は情熱や夢だけでは1ミリたりとも浮きはしないのだ。まして部品の破損個所を埋めてくれるなんてことは絶対にない。
下世話な話だがゼニ切らないとどうにもならん。現実とは過酷なものだ。
じゃあ日本ではどうよと。
日本には個人が航空機を所有・維持するという下地が足りないように感じる。ましてそれがセスナなどの軽飛行機ではなく一足跳びに戦闘機と来てはなおさらだ。兵器に嫌悪感を抱く層は少なからずいることは忘れてはならない。
この手のワンオフに近い飛行機で壊れたらどうするのか。国内で修理する人間を育てるのか、海外で修理するのか、そういう点だって曖昧だ。
維持管理だけではなく飛ばすにも一筋縄ではいくまい。
現行の航空法では引っかかる部分が多すぎるため、確かアメリカでは大戦機を飛ばすために専用の許可を取っているはずだ。より飛行機に優しくない日本で法規をどう解釈するかもあまり見えてこない。
どうにもこのプロジェクトから成功の臭いを感じないのである。
日本人が所有する零戦がある。日本で零戦を動態保存しよう。日本に持ち込んだと言う事実があれば他のことは何とかなる、という風にしか見て取れないのだ。
確かに日本の空を零戦が飛んだことはある。それはゲストとしての飛行だから試験飛行として許可が取りやすかったのであって、動態としての維持管理が可能かとはまた別の話だ。
そして費用の一部をクラウドファンディングで募っていることで、既に「飛行のために予算がありません」と公言された気がするのだ。
情熱は所有者が出します、法規は誰かうまく解釈してください、予算はそちらでも負担よろしくって、かなり投げっぱなしジャーマンじゃないか?
失敗を願うわけではない。成功を願ってやまないが、このプロジェクトはあまりに条件がきつすぎる。
あのプロジェクトのページを見る限り失敗なんか考慮していない。
しかし失敗するとどうなるか。「それ見たことか」と上げ足を取りに来る下種は当然出るだろうが、そうならないためにしっかりと下地を作るべきだ。
大戦機を動態保存し、飛ばし、見聞させる。その過程で下地が出来れば、仮に失敗した時にも次のプロジェクトへ繋がるはずだ。
情熱がなければ零戦の復活など出来なかっただろう。しかし、そろそろ情熱だけでは行き詰まる段階に入っている。
だからこそ飛ばした先を見据え、しっかり考えた行動をしてほしいと願う。
成功にしろ失敗にしろここで終わらせていいプロジェクトではなくなっているのだから。