とある所に兄弟がいた。仲は悪くないと思ってる、との自己申告。
ひとりは優秀であり、すでに親元を遠く離れ、医者ではないものの医療従事者として働いている。
ひとりは地元に残り、健在な両親の面倒を見るという名目で同居しながら収支トントンくらいの仕事をしている。
しかし親のひとりに胃ガンが発覚。すでに他の臓器に転移していて、寿命は月単位ですら楽観的な見方だという診断が下る。
ここで兄弟の意見が分かれた。
ひとりは現段階で運よく地域のガン診察拠点病院にかかれているのだからこのまま標準治療を続けていくべきだと主張。
ひとりは最後の希望にかけて免疫系の認可外先進治療を行いたいと主張した。それもNK細胞や樹状細胞の培養といった『いわゆる』の付くほうの免疫治療である。
「樹状細胞やNK細胞あたりのガン治療は詐欺案件だらけ」
「ホームページにはいい話が載ってるよ」
「詐欺師ほど綺麗事を並べ立てるもの」
「それが効かなくても平行して標準治療は続けられる」
「実費ででしょ。片方だけでも冗談みたいな金額がかかるのに」
「それでも出来る事ならやってあげたいんだ」
数日に及ぶ平行線の話し合いの末、妙な筋からの横槍で標準治療に落ち着くこととなった。
片方が知り合いの医者に相談したところ「あまり大きな声じゃ言えないけれど」の前置きつきで『いわゆる』免疫治療を否定されたのだそうだ。
しかるのちに続けられた標準治療により、患者本人の気力もあって医者から宣言された寿命よりも長く生き、「無理な延命はせず苦しまないようにして下さい」との本人と家族の希望もあり、最期は同じ病室にいても分からぬほど静かに亡くなったとのことだ。
かくも人は頼りないものでも希望にすがりたがる。
しかし、そこにつけこむタチの悪い連中がいることも事実であろう。
何より胸糞悪いのは、末期ガン患者から搾り取る手段の悪辣さだ。
私も気になって調べてみたらまあひどいこと。レントゲン写真の使いまわしはあるわ、保健適用外で続ける標準治療は薬の量が足りないわと並べていくときりがない。さすがに本業から否定されるだけのことはある。「お前、専門外だろ?」っていう医者もちらほら。
表面上はうまくやってるつもりでも命を預けるつもりにはなれない。裏にはどうしても金の臭いが漂っている。
先ほどの兄弟の話で、『いわゆる』の治療法を持ってきたのは医療従事者のほうだった。治療そのものにかかわっていなくても医療に首を突っ込んでいるはずの医療従事者ですら目くらましを喰らうわけだ。
しかし責めるのはお門違いだろう。普段ならうさん臭く感じることでも身内の命がかかるとコロッと騙される。そこにつけこむから腹が立つのだ。
金を稼ぐことを否定はしないが、かっぱぎ方にもある程度礼節は必要だろうよと。
だから詐欺と言うし詐欺師と言ってやる。何度でも。
自分がそういう状況になったらとは考えてしまう。
自分の性格上、病に溺れて藁にすがらないわけはないだろうし、みっともなく情けくあがくだろうというのは時期が未来なだけの確定事項だろう。
その時にはおそらく選択を間違うはずだ。
それでも、詐欺師を笑わせない選択は選びたいと願ってやまない。
酒の席で
「俺は標準治療を選択させちまったけど、あれでよかったのかな。主治医にも苦しくないようにとは頼んだけど苦しくはなかったのか。いらん選択して辛い思いさせたんじゃなかろうか。もっとほかにいいやり方があったんじゃないだろうか。俺は、やれることを本当にやりつくしたんだろうか」
とこぼされたことがある。
答えはあいにくと持ち合わせていなかった。
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